生放送の事故から始まった共感の革命――有働由美子が日本のテレビ業界と「女子アナ像」を根本から変えた日
有働 由美子 脇 汗――この強烈な検索ワードがネット上を駆け巡り、今なお語り継がれている事実を覚えているだろうか。NHKの朝の情報番組『あさイチ』の生放送中、有働由美子アナウンサー(当時)の鮮やかな衣装にクッキリと浮かび上がった汗ジミ。一昔前のテレビ界であれば「放送事故」として処理され、当事者にとっても黒歴史として闇に葬られていたかもしれない出来事だ。しかし、彼女が見せたその後の振る舞いは、日本の放送史における密やかな、だが決定的な転換点となった。
単なるハプニングで終わらせず、視聴者から届いた「脇汗が気になって集中できません」という辛辣なFAXを番組内で自ら朗読し、包み隠さず笑いに変えた対応は実に見事だった。テレビメディアの変遷を振り返る上で有働 由美子 脇 汗という象徴的なハプニングは、それまでの「完璧で隙のない女性アナウンサー」という記号化された虚像を打ち砕き、画面の向こう側にいる視聴者との間にリアルな信頼関係を築いた金字塔として評価されている。
生放送中の「事件」――あの日、NHKのスタジオで起きたリアル

あの日、朝の明るい光が差し込むスタジオでカメラが捉えたのは、洗練されたアナウンス技術を持つベテランキャスターの姿……だけではなかった。鮮やかな洋服の脇部分に、くっきりと広がっていた汗のシミ。ハイビジョン化が進み、出演者の肌の質感や衣装の細部までが克明に映し出されるようになった時代背景も手伝い、お茶の間には一瞬の緊張が走った。
「うっかり見えてしまった」のか、それとも「隠しきれなかった」のか。SNSが爆発的に普及し始めていた当時、画像は瞬く間に拡散され、ネット上は騒然となった。しかし、本当のドラマはここから始まったのだ。
「隠す」から「共有する」へ:FAX読み上げで見せた圧巻の覚悟

通常なら、CM(NHKの場合はコーナーの切り替え)の間に衣装を着替えるか、カメラワークで隠すのが当時の「業界の暗黙の了解」だった。だが、有働キャスターは違った。
番組後半、彼女はあえて視聴者からの指摘FAXを手に取った。「脇汗が目立って番組に集中できません」という直球の言葉。それを彼女は、一切の嫌みも卑屈さもなく、堂々と読み上げたのだ。「あ、見えちゃいました? 生放送って汗かくんですよ!」と言わんばかりのあっけらかんとした笑顔。共演していたV6の井ノ原快彦(当時)との軽妙な掛け合いも相まって、気まずい雰囲気は一瞬で爆笑と温かい共感へと昇華した。
なぜ日本の女子アナ像はあの日を境界線にするのか

それまでの日本のテレビ局における「女子アナ」といえば、どこか浮世離れした美しさと、完璧な微笑み、そして私生活や人間的な生々しさを感じさせない「偶像」としての役割を求められがちだった。少しでも崩れれば叩かれ、失敗は許されない雰囲気が蔓延していたのだ。
有働氏が告白した「生理現象としての汗」は、そうした過剰な美学に対する強烈なアンチテーゼとなった。彼女は完璧なロボットではなく、血の通った一人の人間としてカメラの前に立っている。その当たり前すぎる事実を、あの汗ジミが証明してしまったのだ。結果として、視聴者が求めていたのは「完璧なお人形」ではなく、「痛快で信頼できる同伴者」だったことが明らかになった。
ボディ・ポジティビティの先駆者としての再評価
近年、欧米を中心に「ありのままの自分の身体を受け入れよう」というボディ・ポジティビティの運動が広がりを見せている。コンプレックスや生理現象を隠さず、ポジティブにとらえるこの価値観を、有働氏は10年以上も前に日本の地上波の中心で体現していたと言える。
加齢や体型の変化、そして生理現象。人間であれば誰もが抱える悩みを「恥ずかしいもの」として隠蔽するのではなく、「みんなそうでしょ?」と笑い飛ばす。このオープンな姿勢は、特に同世代の働く女性たちから圧倒的な支持を集めた。「有働さんが汗をかいているのを見て、肩の荷が下りた」という声が、当時番組宛てに殺到したのも頷ける。
汗ケア・制汗市場と「生理現象への無理解」に一石を投じた影響
あのハプニング以降、テレビの情報番組や雑誌で「大人の汗対策」「脇汗の悩み」がオープンに特集される機会が格段に増えた。それまでどこか「陰でこっそり対処するもの」だった汗ケアが、堂々と語れる日常のヘルスケア&マナーとして社会に認知され始めたのだ。
美容業界や日用品メーカーもこの潮流を見逃さなかった。服に響かないインナーや強固な制汗アイテムが次々と開発され、市場は拡大。有働氏のあの一言は、実は日本の生活文化や消費行動にまでジワジワと影響を与えていたのだから面白い。
「作られた美しさ」より「泥くさい人間味」が選ばれる時代へ
AIやデジタル技術が発達し、完璧なビジュアルや修正された画像が溢れかえる現代において、人々が求めているのは「加工できない本物感(オーセンティシティ)」だ。失敗を隠さず、ハプニングを笑顔で乗り越える泥くささこそが、最も強いコンテンツになる。
生放送で脇汗を晒し、それを武器に変えた有働由美子というジャーナリストの生き様。それは、完璧さを強要されがちな現代社会を生きる私たちに、「もっと肩の力を抜いて生きてもいいんだよ」と教えてくれる、今なお色あせないメッセージなのだ。 (出典: 有働 由美子 脇 汗(Yahoo!ニュース))